Reference

Šinvel Grammar

音韻論から不規則動詞、方言、用例集までをまとめた文法書です。
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「現象の海に浸かっている感覚者の言語」

北方の草原と海岸線を季節移動する遊牧民の言語。 能格-絶対格型、動詞先頭、周期相必須。現象が先にあり、話者はそれに触れる存在として記述される。


目次

  1. 音韻論
  2. 文法
  3. 語彙
  4. 用例集

1. 音韻論

1.1 母音(7母音 + 長母音)

前舌 中舌 奥舌
i [i], y [y] u [ɯ]
半狭 e [e], ø [ø] o [o]
a [ɐ]
  • i, y, e, ø が主役。透明・冷涼な音色の核
  • u は非円唇 [ɯ]。日本語のウに近い
  • a [ɐ] はやや中寄り。出現頻度を意図的に低く抑え、感情の頂点や強い表現に限定使用
  • o も低頻度。「遠い・沈む」もののみ
  • 全母音に長母音あり(ii, yy, ee, øø, uu, oo, aa)

1.2 子音(15子音)

歯/歯茎 硬口蓋 軟口蓋 声門
鼻音 m, mh [m̥] n ŋ (ng)
破裂 k
摩擦 f [ɸ] s, z š [ɕ] h
側面摩擦 lh [ɬ]
接近 v [β̞] l j [j]
はじき r [ɾ]

特徴:

  • 破裂音は k のみ。言語全体が「流れ続ける」質感を持つ。k は硬質な一点のアクセント
  • mh [m̥](無声鼻音): 息が鼻から抜ける霧のような音
  • lh [ɬ](無声側面摩擦音): 舌の横から息が漏れる音。風が木の間を通り抜けるような音
  • f [ɸ]v [β̞] は両唇系で統一
  • 摩擦音が豊富(f, s, z, š, h, lh)で、息の気配が常にある

1.3 音節構造

(C)V(C)

  • 語頭子音連結なし
  • 語末に立てる子音: m, n, ŋ, l, r, s, š(鼻音・流音・摩擦音のみ。k で閉じない)
  • 例外: 古層借用語の一部(safek, sikven 等)は借用時に k のコーダが保持された。これらは音韻同化が不完全な化石形であり、生産的なパターンではない。新層借用語(南部方言)では t, p, d, g, k がより自由に出現する
  • 母音連続(VV)は許容。共感覚的表現で活用される

1.4 韻律

常に最終音節にアクセント(高さアクセント主体)。

  • šeeLI, høLIS, nøøRI, mhiiNA, laEN
  • 歌ではフレーズ末尾に向かって盛り上がる使い方ができる

1.5 音象徴

周期相と母音の対応

周期相 対応母音 感覚
萌(始まり) i 高く細い一点の光
盛(最中) y, ø 充実した丸み
移(移ろい) e, u 揺れ・移行
眠(休止) o, a 低く沈む

感覚モダリティと子音の対応

感覚 子音 音声学的根拠
視覚 s, š, l, lh 高周波摩擦=光の鋭さ
聴覚 n, r, z 共鳴・振動
身体感覚 m, f, v, mh, h, ŋ 唇音=接触、呼気=嗅覚
間・境界 j 半母音=感覚と感覚の間
共感覚 母音連続・長母音 境界が溶ける

1.6 歌唱形(詩歌レジスター)

歌詞で使うときに任意で適用できる変形規則。

規則 通常形 歌唱形
語末摩擦音(s, š)の脱落 hølis høli
高音域での ø→e, y→i 緩和 søøn (発音のみ。表記は変えない)
mh → m の緩和 mhiina miina
能格 -me の省略 me-me me

2. 文法

2.1 基本語順

V (S) (O) — 動詞先頭の現象記述型。

まず「何が起きているか」が来て、「誰に/誰が」は付加情報。 格接辞で名詞の役割を区別するため、語順は比較的自由。歌詞では響き優先で並べ替え可能。

2.2 能格-絶対格型

役割 標識
自動詞の主語 (S) 絶対格 無標
他動詞の目的語 (O) 絶対格 無標
他動詞の行為者・体験者 (A) 能格 -me
Røøl-yø    røøli.          (自動詞: 水[絶対格]が流れている)
Nør-yø     høøne   mem.    (他動詞: 歌[絶対格]が私[能格]に聞こえる)

2.3 格体系(8格)

機能 標識 例(šin「風」)
絶対格 現象の主体/対象(無標) šin
能格 体験者・行為者 -me šinme
属格 所有・関係 -li šinli
具格 手段・道具 -ves šinves
源格 起点・原因 -nøs šinnøs
向格 方向・目的 -lei šinlei
在格 場所・状態の中 -ve šinve
共格 共同・伴随 -uu šinuu

名詞の接辞累積順序: 語幹 + 複数 + 格

nøøri-in-me    星たち-能格
hølis-in-ve    森たち-の中で

2.4 意志性

能格 -me に意志の有無を重ねる。

段階 能格の形
自然発生 (能格なし) Røsii røøl-en.「雨が流れ移ろう」
非意志的体験 -me Nør-yø høøne mem.「歌が私に聞こえる」
意志的行為 -meva Høøn-yø høøne me-meva.「私が歌を歌う」

-meva は意志的行為の標識。この言語では出来事は向こうからやってくるものなので、意志を明示するのは例外的であり、多用すると傲慢に聞こえる。普段は -me で語る。

2.5 周期相(義務的)

動詞語幹に接尾する。この言語の最大の個性。

接辞 定義
萌(始まり) -si 現象が無から生じつつある。まだ完全には顕れていない
盛(最中) -yø 現象が十全に顕れている。変化の途上にない
移(移ろい) -en 現象がある状態から別の状態へ移行している
眠(休止) -ul 現象が顕在化していない。消滅ではなく潜在

判断フローチャート:

その現象は今、顕在化しているか?
├─ いいえ → 眠 -ul
└─ はい
   ├─ 変化の途上にあるか?
   │  ├─ はい → 移 -en
   │  └─ いいえ
   │     ├─ 十分に顕れているか?
   │     │  ├─ はい → 盛 -yø
   │     │  └─ まだ途上 → 萌 -si

完了相は意図的に不採用。周期的世界観では「完了」は異質な概念であり、結果状態は周期相の組み合わせで表現する。

2.6 時間距離(任意)

周期相の後に挿入。省略すれば「今ここ」がデフォルト。過去と未来を区別しない。

距離 接辞
近(デフォルト)
-ra-
-hø-

2.7 証拠性・感覚モダリティ(任意)

動詞末尾に追加。省略すれば「不特定の直接体験」。

経路 接辞 意味
視覚 -lis 目で見て知った
聴覚 -nar 耳で聞いて知った
身体感覚 -fem 肌・鼻・舌など身体で知った
間接知 -vel 伝聞・推論など直接体験でなく知った
直観・夢 -søl 説明できないが知っている

南部方言には書物からの知識を示す -tes も存在する(Velšen語借用)。

2.8 モダリティ(任意)

証拠性の後(動詞の最も外側)。

接辞 意味
-løs 可能(〜できる)
-søm 願望(〜したい)
-hør 義務(〜すべき)
-mhi 許可(〜してよい)
-røs 推量(〜かもしれない)

2.9 動詞の接辞テンプレート

否定(vi-) + 語幹 + 使役(-møs) + 周期相 + 時間距離 + 証拠性 + モダリティ
スロット 位置 必須?
否定 vi- 接頭辞 任意
動詞語幹 必須
使役 -møs 語幹後(接尾) 任意
周期相 接尾1 必須
時間距離 接尾2 任意
証拠性 接尾3 任意
モダリティ 接尾4 任意

最小: nøm-ul(眠る-眠) 最大: vi-nøm-møs-yø-ra-nar-søm(否定-眠る-使役-盛-中距離-聴覚-願望)

2.10 否定

動詞語幹の前に vi- を付ける。

Vi-nøm-yø šin.   「風が眠っていない」
Vi-nør-yø mem.    「私に聞こえない」

不規則な否定形:

  • øs-(在る)の否定は別語幹 nen- を使う(vi-øs- とは言わない)
  • miin-(知る)の否定は口語で viin- に縮約(正式には vi-miin-)
Nen-yø šin.      「風が在らない」
Viin-yø mir-me.   「誰も知らない」(口語)

2.11 疑問

文末に na を置く。

Nøm-yø šin na?        「風は眠っているか?」
Mir-nøs høøn-yø na?   「なぜ歌っているのか?」

2.12 疑問詞

mir(何)+ 格接辞で全派生。

疑問詞 意味
mir 何・どれ
mir-me 誰(どの体験者)
mir-ve どこ(何の中)
mir-lei どこへ
mir-nøs なぜ(何から)
mir-ves どうやって
mir-vel いつ(何の日)

mir-vel について: vel は「日」の意。-vel(証拠性・間接知)とは同根で、「日を経て知った知識」→「直接体験でない知」への文法化による。品詞が異なる(名詞複合 vs 動詞接辞)ため実用上の曖昧性はない。

2.13 複数

名詞に -in を付ける。

nøøri → nøøriin  「星たち」
šin   → šinin    「風たち」

自然現象や不可算のものに複数形を使わない傾向がある。

2.14 人称代名詞

単数 複数
一人称 me mes
二人称 le les
三人称 se ses

全て前舌母音 e で統一。短く、歌の中で邪魔にならない。

代名詞の格変化は不規則(高頻度による磨耗):

me(私) le(あなた) se(彼/それ)
絶対格 me le se
能格 mem lem sem
属格 mel lel sel
在格 mev lev sev
共格 muu luu suu
向格 melei lelei selei
源格 menøs lenøs senøs
具格 meves leves seves

能格(-m)・属格(-l)・在格(-v)・共格(-uu)は縮約形。その他は規則的。

me(一人称)と -me(能格)が同形なのは意図的。「私」と「体験する者」が同じ形をしている。

mem と me-me の使い分け: 日常会話では縮約形 mem(同様に lem, sem)がデフォルト。完全形 me-me は詩歌・強調・形式的な場面で用いる明示的ヴァリアント。

2.15 指示詞

同心円的距離の3段階。空間にも時間にも使える。過去と未来を区別しない。

指示詞 距離 意味
si この・ここの
ri その・そこの
høi あの・あそこの

名詞の前に置く。

si røøli   「この水」
høi nøøri  「あの星」
si vel     「今日」(この日)
høi vel    「遠い日」(過去でも未来でも)

2.16 空間表現

空間距離接辞(名詞に付加)

指示詞と同根だが長母音化で区別。

距離 接辞
ここ(手の届く範囲) -sii
そこ(知覚の内) -rii
あちら(知覚の外) -høii
hølis-sii-ve   「ここの森の中で」
hølis-høii-ve  「あの遠い森の中で」

相対方位

意味
insi 内へ・中心へ
øves 外へ・周縁へ
iihe 上へ・空の方へ
ulme 下へ・地の方へ

自然地形方位

固有語では風と水の流れで方角を指す。

意味
šinlei 風上
šinnøs 風下
røøllei 川上・水源の方
røølnøs 川下・海の方

絶対方位(古層借用語)

Velšen語から借用された東西南北。交易・地図・外交文書で使われる。北部話者は日常会話では自然地形方位を好む。

意味 Velšen語原形
norsek *nortek
suzel *sudel
sihel *tigel
vezol 西 *bedol

2.17 コピュラ

存在動詞 øs-。周期相を伴う。最も不規則な動詞。

周期相 肯定 否定
øsi nensi
øsyø nenyø
øsen nenen
ol(縮約) nenul
  • 否定は vi-øs- ではなく別語幹 nen- を使う
  • 眠相 øs-ul → ol(高頻度による強い縮約。*øsul → *osul → ol)
  • ol-hø で「遠い昔に在った」
Øsyø  me lamen.    「私は人である」
Ol    me lamen.     「私は人であった」
Ol-hø hølis.        「(遠い昔)森が在った」
Nenyø šin.          「風が在らない」

所有は在格構文で表す。

Øs-yø  høøne  me-ve.  「歌が私のところに在る」=「私は歌を持っている」

2.18 形容詞

名詞の後ろに置く。

šin søøle    「静かな風」
hølis iima   「美しい森」

比較

源格 -nøs で「〜より」。

Øs-yø mira silë hølis-nøs.  「丘は森より美しい」

最上級

øøs(すべて)+ 源格。

Øs-yø si hulmen høølen øøs-nøs.  「この山が最も大きい」

2.19 副詞

形容詞に -is を付けて副詞化。動詞の前に置く。

søøle → søøleis  「静かに」

Søøleis høøn-yø mem.    「私は静かに歌っている」

2.20 従属節

動詞名詞化 -rin + 格接辞で従属節を作る。

意味 構成
〜するとき -rin-ve røøl-si-rin-ve「流れ始めるとき」
〜なので -rin-nøs nøm-ul-rin-nøs「眠っているので」
〜するために -rin-lei liis-yø-rin-lei「見るために」
〜するところの -rin-li + 名詞 høøn-yø-rin-li lamen「歌っている人」

格接辞の時間的用法:

向格 -rin-lei と源格 -rin-nøs は時間的な前後関係にも使える。

意味 構成
〜するまで -rin-lei høømel syl-si-rin-lei「煙が立つまで」
〜する前に -rin-nøs ulnøm syl-si-rin-nøs「夜が来る前に」

向格(方向)が未来の到達点を、源格(起点)が未来の事態からの遡及を表す。

2.21 使役

動詞語幹に -møs を付ける。使役者は能格 -me、被使役者は向格 -lei。

Høøn-møs-yø  høøne  mem    se-lei.
歌う-使役-盛  歌     私-能格  彼-向格
「私が彼に歌を歌わせている」

「強制」より「条件を整えた・促した」のニュアンス。

2.22 再帰・相互

再帰(自分を〜する): 動詞の前に øm を置く。

Øm mhin-yø mem.    「私が自分を隠している」

相互(互いに〜する): 動詞の前に søin を置く。

Søin liis-yø mes.     「私たちが互いに見ている」

2.23 条件文

接続詞 mhel を従属節の前に置く。

Mhel røøl-si-rin-ve røsii, syl-si røøli.
「もし雨が流れ始めるなら、水が現れ始める」

2.24 接続詞

機能
yi 並列(〜と、そして)
šen 転換(しかし、けれど)
nei 因果(ゆえに)
uu 同時性(〜しながら)
øøn 選択(または)

談話接続(二語定型句・磨耗形)

日常会話や説明文で頻用される接続表現。接続詞の組み合わせから発達した。

意味 由来
vesøm つまり(言い直し) ves + øm(再帰)。自己修復マーカー
øøsves 要するに øøs + ves。要約
šen simer さて・ところで šen + simer。話題転換
šenøøn 一方で šen + øøn → 磨耗
yimiir さらに・加えて yi + miir → 磨耗
neiris 結局 nei + riišen → 磨耗
ris øøn たとえば ris + øøn。例示

2.25 関係性小辞(任意)

文中の任意の位置に置ける独立小辞。省略すれば中立。

小辞 関係性
ne 親しみ
høl 敬意・距離
mii 恩義・感謝
re 対等

2.26 命令形

専用の命令形態素は持たない。歴史的に、義務モダリティ -hør の縮約形が命令の機能を吸収した。

口語での縮約: -yø-hør が高頻度語で -ør に縮約し、事実上の命令形として機能する。

Ham-yø-hør → Hamør.     「食べなさい」(最も定着した縮約。ほぼ命令形)
Nøm-yø-hør → Nømør.     「眠りなさい」(やや定着)
Kel-yø-hør → Kelør.     「行きなさい」(散発的)

丁寧な依頼には願望 -søm を使う。-hør/-ør が直接的な指示、-søm が柔らかい依頼という語用論的対立がある。

Hamør.                  「食べなさい」(直接的)
Ham-yø-søm  le-meva.   「あなたが食べることを望む」→「食べてほしい」(丁寧)

縮約が進んでいない動詞では -yø-hør のまま使い、やや堅い響きになる。

2.27 数詞

4と8を節目とする体系。4周期相が一巡。

備考
0 ul 眠相と同形
1 en
2 søi
3 mhi
4 yøn 一巡の充足。盛の母音
5 yøn-en 4+1
6 yøn-søi 4+2
7 yøn-mhi 4+3
8 siir 二巡
9-15 siir-en 〜 siir-yøn-mhi 8+n
16 søi-siir 2×8
32 yøn-siir 4×8
64 høøl 独自語根
512 siir-høøl 8×64
4096 miirhøøl miir(巡り)+ høøl(64)。64巡り

序数詞: 基数に -is を付ける(enis = 第1の)。 数詞は名詞の後ろに置く(nøøri mhi「三つの星」)。

2.28 複合語

修飾語 + 被修飾語の順で直接結合。

šin + møøl  → šinmøøl  「風の草原」
søøn + hølis → søønhølis「雪の森」

曖昧な場合は属格 -li を間に挟む。

2.29 時間副詞

意味
sivel 今日
rivel 近い過去/未来の日
høivel 遠い過去/未来の日
øøsvel いつも
viøsvel 一度もない
mišvel ときどき
simer

2.30 量化詞

意味
øøs すべて
miš いくつかの
enøs 一つだけの
viøs 何もない

名詞の後ろに置く。

2.31 不規則動詞

高頻度動詞には歴史的磨耗による不規則性がある。

動詞 不規則性 歴史的理由
øs-(在る) 否定 nen-(別語幹)。眠相 ol(縮約) 祖語の独立動詞が否定存在を駆逐
kel-(歩く) 遠距離形 keløø(縮約) 遊牧民の最頻用動詞
ves-(語る) 眠相 vešul(s→š交替) 祖語の口蓋化の類推的波及
miin-(知る) 否定 viin-(口語縮約) 高頻度否定による融合
ham-(食べる) 義務形 hamør(縮約) 事実上の命令として固定化
syl-(現れる) 語幹母音交替 sil/syl/sel/sol 祖語の母音交替の唯一の生き残り

syl- の語幹母音交替(唯一の例):

syl-si  →  silsi   (萌。y→i)
syl-yø  →  sylyø   (盛。規則的)
syl-en  →  selen   (移。y→e)
syl-ul  →  solul   (眠。y→o)

ves- の眠相(物語の冒頭定型句):

Vešul-hø høønel-me: ...
「遠い昔、語り部が語った——」

2.32 形態音韻規則

文語(書き言葉)では音韻変化は起きない。音韻変化は発話・歌唱時の現象。

状況 処理 義務性
同一母音の連続 長母音に融合(liis- + -si → liisi) 義務的
異なる母音の連続 そのまま / 先行母音脱落(rehi- + -en → rehien / rehen) 任意(速度依存)
子音+子音 音節境界で分割(høøn- + -nar → høøn.nar) 義務的
同一子音の連続 重子音(nøm- + -me → nøm.me) 義務的
語末子音+次語の母音 リエゾン傾向(hølis iima → [hø.li.siː.ma]) 任意
vi- + 母音語幹 i 脱落傾向(vi- + øs- → vøs-) 任意

2.33 方言

北部方言(Šinvel møøl vesin)

- 最も古風。遊牧文化圏。Dfc気候 - mh, lh を明瞭に発音。語末子音をしっかり保持 - 証拠性を日常会話でも多用。関係性小辞を丁寧に使う - 周期相4つを厳密に使い分ける - -meva(意志能格)は非常に重い。多用は傲慢とされる - 海洋語彙が乏しい。外来語をほぼ使わない

南部方言(hapør vesin「首都の言葉」)

- 都市的。Cfb気候。隣国(Velšen語圏)の影響が強い - mh → m, lh → l に弱化。リエゾンが頻繁 - 証拠性接辞をほぼ省略。使うと「堅い」と感じられる - 周期相が実質2つに縮退傾向(萌+盛 → -yø / 移+眠 → -en) - -meva の使用に抵抗が薄い - **借用語により t, p が音素として再導入されている**(子音18体系) - 新層借用語が多い(tadrem, polkenis, hapør 等) - **独自の革新:** 所有接語(-m/-l/-s)、連動構文(動詞並置)、証拠性 -tes(書物)

南部方言の用例

以下、各文を北部形と対比して示す。

1. 所有接語

北部: Mel  røøsin  šøøre.        「私の馬は速い」
南部: Røøsin-m  šøøre.           (-m = 一人称所有接語)

2. 所有接語 + 南部語彙

南部: Parves-l  tøkel  mir  na?  「あなたの仕事の代金はいくらだ?」
      (-l = 二人称所有接語。parves, tøkel は南部借用語)

3. 連動構文(目的節 -rin-lei の回避)

北部: Liisves-yø-rin-lei  kel-en  mem  mirkosel-lei.
      「本を読むために図書館に歩いた」

南部: Kel-en  liisves-yø  mem  mirkosel-lei.
      (動詞を並置。-rin-lei が消え4音節分軽い)

4. 連動構文(因果 -rin-nøs の回避)

北部: Røsii  røøl-en-rin-nøs,  røølmen  miren-yø.
      「雨が降ったので川が増えた」

南部: Røsii  røøl-en,  nei  røølmen  miren-yø.
      (従属節を独立節 + nei に分割)

5. 証拠性 -tes(書物)

北部: Ol-hø  føøris  høølen  si  hulmen-ve,  -vel.
      「この山にはかつて巨大な熊がいた(間接的に聞いた)」

南部: Ol-hø  føøris  høølen  si  hulmen-ve,  -tes.
      「この山にはかつて巨大な熊がいた(本で読んだ)」

6. 周期相の縮退

北部: Syl-si  ŋølhe.    「花が咲き始めている」(萌。明確に「始まりつつある」)
南部: Syl-yø  ŋølhe.    「花が咲いている」(萌+盛が-yøに縮退。始まりか最中か曖昧)

7. -meva の自由な使用

北部: Šimøs-en  si  peløøn  mem.       「この店を選んだ」(-me。現象として語る)
南部: Šimøs-en  si  peløøn  mem-meva.  「この店を選んだ」(-meva。意志を堂々と表明)

8. 音韻弱化(mh→m, lh→l)

北部: Mhiina-ve  mhøøle  šin  røøl-yø.   [m̥iːna.βe m̥øːle ɕin ɾøːl.jø]
南部: Miina-ve   møøle   šin  røøl-yø.    [miːna.βe møːle ɕin ɾøːl.jø]
      「霧の中で冷たい風が流れている」(mh [m̥] → m [m]。無声鼻音が有声化)

9. 証拠性の省略

北部: Nør-yø-nar   hølis-li  iirin  mem.   「森の声が聞こえている(耳で)」
南部: Nør-yø       hølis-li  iirin  mem.   「森の声が聞こえている」(-nar 省略。自明)

10. 複合(全特徴を組み合わせた南部の日常文)

南部:
Rivel  sikvenmen-ve  liisves-en  mem  tepøøn-m,  -tes:
tukøs  velis  syl-yø  miir-lei,  rivel-nøs.

「昨日法廷で私の書類を読んだが、書いてあったところによると、
新しい税が次の巡りまでに現れるということだ」

特徴: 所有接語(-m)、-tes、南部語彙(sikvenmen, tepøøn, tukøs)、
      周期相縮退(syl-yø)、連動構文(従属節なし)

3. 語彙

語彙集は vocabulary.md を参照。約630語を収録。


4. 用例集

4.1 基本文

Nøm-ul šin.
眠る-眠 風
「風が眠っている」

Røøl-yø røøli.
流れる-盛 水
「水が流れている」

Syl-si nøøri.
現れる-萌 星
「星が現れ始めている」

4.2 能格と意志性

Liis-si    nøøri    mem.
見える-萌  星       私-能格
「星が見え始めている、私に」(非意志)

Liis-yø    nøøri    me-meva.
見る-盛    星       私-意志能格
「私が星を見ている」(意志)

4.3 格の使用

Hølis-li   ves    nør-yø     mem-nar.
森-属格    声     聞こえる-盛  私-能格-聴覚
「森の声が聞こえている、私の耳に」

Kel-ul-ra      hølis-ve   me-meva   søimel-uu.
歩く-眠-中距離  森-在格    私-意志能格  友-共格
「少し前、森の中で私が歩いた、友と共に」

4.4 従属節

Nøm-ul-rin-nøs     šin,   øs-yø   hølis   søøle.
眠る-眠-こと-源格    風     在る-盛  森      静かな
「風が眠っているので、森は静かに在る」

Mhel  øs-ul-rin-ve  søøn,  røøl-si  røøli.
もし  在る-眠-の中で  雪    流れる-萌  水
「もし雪が眠っているなら、水が流れ始める」

4.5 詩的表現

Søøn  rehi-en,    lhøøsi  syl-si.
雪    消える-移    夜明け光  現れる-萌
「雪が消えゆき、夜明けの光が現れ始める」

Nør-yø-nar         hølis-li  ves,
聞こえる-盛-聴覚で   森-属格   声

šin-uu     iir-yø    me.
風-共格    息する-盛  私
「森の声が耳に聞こえ、風と共に息をしている」

4.6 実用的な文

Mir-nøs  høøn-yø   lhiiven  na?
何-源格  歌う-盛    鳥     疑問
「なぜ鳥は歌うのだろう」

Vi-sølv-yø-søm     si  ŋølhe-li  ŋøølen    lem.
否定-忘れる-盛-願望  この 花-属格   香り      あなた-能格
「この花の香りを忘れないでいてほしい」

Øs-yø  ves:  hele-en-hø    nøøri  øvesin-lei.
在る-盛  語り  落ちる-移-遠   星     海-向格
「語りが在る——遠い昔、星が海へ落ちていった」

4.7 挨拶・慣用表現

表現 意味 場面
Šin søøleis. 風が穏やかだ 日常の挨拶
Mir øs-yø na? 何がありますか? 調子はどう?
Iir-yø. 息をしている 元気です
Nøøri silë. 星が美しい 夜の挨拶
Kel-si møøl søøle. 草原の旅路が穏やかでありますよう 別れの挨拶
Miirsøl. 祈り 感謝・敬意
Mhel šin-uu. 風と共にあれ 旅立つ者へ
Rivel-ve. またね カジュアルな別れ
Nøm søøle. おやすみ 就寝前
Mhøliirin. すみません 丁寧な謝罪
Løøme. ごめん カジュアルな謝罪
Nen keisfem. 気にしないで 謝罪への返答
Miirsøl hammen. いただきます 食事前
Yøøn-yø. ごちそうさま 食後
Iir jøøle. お疲れ様 労い

4.8 談話標識を含む会話例

— Ei ne, Šurii.           「ねえ、シュリー」
— Øø?                      「ん?」
— Em... mirves-yø mem, na ne.  「えーと…聞きたいんだけどさ」
— Vesør.                   「話して」
— Høilam sylven-en safek-lei, -lis.
                           「外国人が市場に来た、目で見た」
— Røølis na?               「本当?」
— Iin røølis. Yi simer, ves-yø vesin vimiinøs sem.
                           「本当だよ。しかも、知らない言葉を話していた」
— Za! Mir-nøs sylven-yø na søl.
                           「わ! なんで来たのかな」
— Em, viin-yø mem. Šenøøn, safekme-in føøs-yø.
                           「えーと、わからない。一方で、商人たちは喜んでいた」
— Miin. Neiris, jøøle-is, na ne.
                           「なるほど。結局、いいことだよね」
— Iin. Šen simer, ham-yø na le? Hamør.
                           「うん。さて、食べる? 食べなよ」
— Miirsøl. Ham jøøle.
                           「ありがとう。いただきます」