Reference

Šinvel Grammar

音韻論から不規則動詞、方言、用例集までをまとめた文法書です。
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「現象の海に浸かっている感覚者の言語」

北方の草原と海岸線を季節移動する遊牧民の言語。 能格-絶対格型、動詞先頭、周期相必須。現象が先にあり、話者はそれに触れる存在として記述される。


目次

  1. 音韻論
  2. 文法
  3. 語彙
  4. 用例集

1. 音韻論

1.1 母音(7母音 + 長母音)

前舌 中舌 奥舌
i [i], y [y] u [ɯ]
半狭 e [e], ø [ø] o [o]
a [ɐ]
  • i, y, e, ø が主役。透明・冷涼な音色の核
  • u は非円唇 [ɯ]。日本語のウに近い
  • a [ɐ] はやや中寄り。出現頻度を意図的に低く抑え、感情の頂点や強い表現に限定使用
  • o も低頻度で、距離・沈降に関わる語に偏る
  • 全母音に長母音あり(ii, yy, ee, øø, uu, oo, aa)

1.2 子音(15子音)

歯/歯茎 硬口蓋 軟口蓋 声門
鼻音 m, mh [m̥] n ŋ (ng)
破裂 k
摩擦 f [ɸ] s, z š [ɕ] h
側面摩擦 lh [ɬ]
接近 v [β̞] l j [j]
はじき r [ɾ]

特徴:

  • 破裂音は k のみ。閉鎖が少なく気流が途切れにくい。k は唯一の閉鎖点として際立つ。語彙頻度としても意図的に低く抑え、衝撃・破壊・断絶の音象徴 (§1.5) と一致させる
  • mh [m̥](無声鼻音): 呼気を伴う鼻音。有声の m と対立する
  • lh [ɬ](無声側面摩擦音): 舌の横から呼気が漏れる音
  • f [ɸ] と v [β̞] は両唇系で統一
  • 摩擦音が豊富(f, s, z, š, h, lh)で、呼気成分が多い

1.3 音節構造

(C)V(C)

  • 語頭子音連結なし
  • 語末に立てる子音: m, n, ŋ, l, r, v, s, š(鼻音・流音・接近音・摩擦音。k で閉じない)
  • 例外: 古層借用語の一部(safek, sikven 等)は借用時に k のコーダが保持された。音韻同化が不完全な化石形であり、生産的なパターンではない。新層借用語(南部方言)では t, p, d, g, k, f がより自由に出現する。借用語の音変化規則と層分類は design-notes.md「祖語の破裂音体系」「借用語層」参照
  • 母音連続(VV)は許容。共感覚的表現で活用される

1.4 韻律

常に最終音節にアクセント(高さアクセント主体)。

  • šeeLI, høLIS, nøøRI, mhiiNA, laEN
  • 歌ではフレーズ末尾に向かって盛り上がる使い方ができる

1.5 音象徴

周期相と母音の対応

周期相 対応母音 感覚
萌(始まり) i 高く細い一点の光
盛(最中) y, ø 充実した丸み
移(移ろい) e, u 揺れ・移行
眠(休止) o, a 低く沈む

感覚モダリティと子音の対応

感覚 子音 音声学的根拠
視覚 s, š, l, lh 高周波摩擦=光の鋭さ
聴覚 n, r, z 共鳴・振動
身体感覚 m, f, v, mh, h, ŋ 唇音=接触、呼気=嗅覚
間・境界 j 半母音=感覚と感覚の間
共感覚 母音連続・長母音 境界が溶ける

適用範囲: 音象徴は第2層以降の語彙造語(複合語・派生語・感覚形容詞)で生産的に機能する。第1層の祖語由来語根(šin, keis, vel 等)は音象徴体系の確立以前の層であり、必ずしも対応に従わない。høøn-(歌う)が視覚・聴覚系の子音ではなく h-(身体系・呼気)で始まるのは、歌が呼気を伴う身体行為であることを反映している。

1.6 歌唱形(詩歌レジスター)

歌詞で使うときに任意で適用できる変形規則。

規則 通常形 歌唱形
語末摩擦音(s, š)の脱落 hølis høli
高音域での ø→e, y→i 緩和 søøn (発音のみ。表記は変えない)
mh → m の緩和 mhiina miina
能格 -me の省略 me-me me
形態素境界の省略 Nør-yø Nøryø

詩・歌のテキストでは形態素境界のハイフンを省略し、融合形で書く(例: Lhesyø, Høønyø, Liisyø)。文法書・学習資料では分節形(Lhes-yø, Høøn-yø, Liis-yø)を用いる。

ただし、証拠性接辞(-lis, -nar, -fem, -vel, -søl)やモダリティ接辞(-løs, -søm, -hør, -mhi, -røs)は歌唱形でも形態素境界を保持してハイフン付きで書く(例: Liisyø-lis「目で見ている」)。これら外側スロットの接辞は意味的に重く、融合させると視認性を損なうため。

例: 語末摩擦音 s, š の脱落は北部の伝統歌で実装される。

Hølis silsi  →  歌唱形: Høli silsi  「森が芽吹き始める」(語末 s 脱落)

文法書・学習資料・散文的翻訳では分節形を維持し、歌唱形は北部の伝統歌でのみ実装される文体的選択肢として位置づける。


2. 文法

2.1 基本語順

V (S) (O) — 動詞先頭の現象記述型。

まず「何が起きているか」が来て、「誰に/誰が」は付加情報。 格接辞で名詞の役割を区別するため、語順は比較的自由。歌詞では響き優先で並べ替え可能。

2.2 能格-絶対格型

役割 標識
自動詞の主語 (S) 絶対格 無標
他動詞の目的語 (O) 絶対格 無標
他動詞の行為者・体験者 (A) 能格 -me
Røøl-yø    røøli.          (自動詞: 水[絶対格]が流れている)
Nør-yø     høøne   mem.    (他動詞: 歌[絶対格]が私[能格]に聞こえる)

2.3 格体系(8格)

機能 標識 例(šin「風」)
絶対格 現象の主体/対象(無標) šin
能格 体験者・行為者 -me šinme
属格 所有・関係 -li šinli
具格 手段・道具 -ves šinves
源格 起点・原因 -nøs šinnøs
向格 方向・目的 -lei šinlei
在格 場所・状態の中 -ve šinve
共格 共同・伴随 -uu šinuu

名詞の接辞累積順序: 語幹 + 周期相(任意) + 複数 + 格

nøøri-in-me       星たち-能格
hølis-in-ve       森たち-の中で
ŋølhe-en-in-ve    散りゆく花々-の中で

2.4 意志性

能格 -me に意志の有無を重ねる。

段階 能格の形
自然発生 (能格なし) Røsii røøl-en.「雨が流れ移ろう」
非意志的体験 -me Nør-yø høøne mem.「歌が私に聞こえる」
意志的行為 -meva Høøn-yø høøne me-meva.「私が歌を歌う」

-meva は意志的行為の標識。この言語では出来事は向こうからやってくるものなので、意志を明示するのは例外的であり、多用すると傲慢に聞こえる。普段は -me で語る。

同一動詞での -me / -meva 対比:

Liis-yø  nøøri  mem.
見る-盛  星     私-能格
「星が見えている、私に」(非意志: 視覚現象として星が訪れる)

Liis-yø  nøøri  me-meva.
見る-盛  星     私-意志能格
「私が星を見ている」(意志: 私が能動的に観察している)

-meva 使用の基準:

  1. 意志的選択を強調する場面(「私が選んだ」「私が決めた」)
  2. 詩歌・劇的な場面で個の主体性を浮き上がらせるとき
  3. 心理的転換点(cf. shuno-ch1 で土を掘る場面の Šuno-meva)
  4. 日常会話では避ける。多用は傲慢に響く

普段の自己言及は -me で十分。-meva は「ここで意志を立てるべきか」と判断してから使う。

2.4b 感情・体験動詞の格付与

感情・知覚・体験を表す動詞では、能格-絶対格の標準的対応に対して 感情・知覚自体が絶対格(主語)、体験者が能格 -me に退く という反転が起きる。これは「感情は外から来る現象」という世界観の文法的帰結であり、Šinvel 語の世界観が文法に染み出している部分。

Mhølii   øsyø     mev.
悲しみ   在る-盛   私-在格
「悲しみが私のところに在る」=「私は悲しい」

Løøme    røøl-en   se-lei.
許し     流れる-移  彼-向格
「許しが彼へ流れ移ろう」=「私は彼を許した」

Nøøves-yø    vøølme-li  vøøn-li  fømii    mem.
思い出す-盛   祖母-属格   手-属格   温もり   私-能格
「祖母の手の温もりが私に思い出されている」=「祖母の手の温もりを思い出す」

Kei-en    søviin-li  jøven   sem.
壊す-移    一族-属格   絆      彼-能格
「一族の絆が彼によって壊れ移ろう」=「彼が一族の絆を裏切った」

感情・知覚語彙(mhølii「悲しみ」, føøsi「喜び」, šøøli「恥」, kehøøn「怒り」, kølhøøn「憎しみ」, nøøvel「懐かしさ」, jøvenmen「友情」 等)は通常この構文で運用する。意志的に「私が感じる」と能動的に表現するのは Šinvel 的でない。

ただし、能動的・選択的な感情行為(Røølis-en šimøs-en mem-meva.「信じることを選んだ」)には -meva(意志能格)を用いることができる。

2.5 周期相(義務的)

動詞語幹に接尾する。この言語の最大の個性。

接辞 定義
萌(始まり) -si 現象が無から生じつつある。まだ完全には顕れていない
盛(最中) -yø 現象が十全に顕れている。別の状態へ移行していない
移(移ろい) -en 現象がある状態から別の状態へ移行している
眠(休止) -ul 現象が顕在化していない。消滅ではなく潜在

判断フローチャート:

その現象は今、顕在化しているか?
├─ いいえ → 眠 -ul
└─ はい
   ├─ 別の状態へ移行しているか?
   │  ├─ はい → 移 -en
   │  └─ いいえ
   │     ├─ 十分に顕れているか?
   │     │  ├─ はい → 盛 -yø
   │     │  └─ いいえ(生じつつある) → 萌 -si

完了相は形態素として意図的に不採用。周期的世界観では「完了」は異質な概念であり、結果状態は周期相の組み合わせで表現する(-yø は結果顕在、-en は移行途中)。

過去・完了的意味は移相 -en と時間距離 -ra-/-hø-、時間副詞(rivel, høivel 等)の組み合わせで補う。ただし -en は「移ろい・移行」であって「完了」ではない。完了の代替であって等価ではない。

境界ケースの指針:

  • 瞬間動作(kei-「壊す」、hele-「落ちる」、reis-「投げる」等): 移行の性質が強ければ -en(kei-en「壊れていく」、hele-en「落ちていく」)、結果の顕在が焦点なら -yø(kei-yø「壊れている」)
  • 知覚の遷移(søøri-「探す」→ miirel-「見つける」): 探している過程は -yø(søøri-yø)、見つかる瞬間は -si(miirel-si)、見つかった状態は -yø(miirel-yø)。「見つけた」という完了的意味は文脈と時間距離で補う
  • 習慣的行為(「毎朝歩く」): -yø が基本。øøsvel(いつも)等の副詞を添える

挨拶・祈り・命令の定型句では裸語幹が用いられる(Nøm søøle.「おやすみ」、Mhøliirin.「すみません」、Ham jøøle.「召し上がれ」)。これらは祖語段階の祈願形が化石化したもので、周期相義務の例外として扱う。また、一部の高頻度動詞は裸語幹が名詞としても機能する(ves「語り・物語」、nøm「眠り」等)。

nøm- と眠相の区別: nøm-yø は「睡眠という現象が十全に顕れている」(人や動物が実際に眠っている)ことを表す。一方、nøm-ul は「活動が潜在に退いている」ことを表し、風・水・雪・歌・友情などの非人間的現象に使うと、止まった/消えたのではなく次の萌を待っている感覚になる。

2.5b 名詞への周期相拡張(任意)

動詞の周期相はその現象の「今」を切り取るが、名詞に周期相接辞を付加することで、その存在が周期のどの位相にあるかを表現できる。動詞の周期相が義務的であるのに対し、名詞への付加は常に任意。付加しなければ周期的に中立な(位相を問わない)名詞として機能する。

接辞は動詞と同じ -si / -yø / -en / -ul を名詞語幹に直接付ける。格接辞がある場合、周期相は格の前に入る(語幹 + 周期相 + 複数 + 格)。

自然物の例

ŋølhe       花(位相を問わない)
ŋølhe-si    芽吹こうとしている花(萌の花)
ŋølhe-yø    満開の花(盛の花)
ŋølhe-en    散りゆく花(移の花)
ŋølhe-ul    枯れて地に潜んでいる花(眠の花)
šin-si      吹き始めの風
šin-ul      凪——風が潜んでいる
hølis-en    色づき始めた森・紅葉の森

抽象概念への拡張

自然物だけでなく、感情・関係性・人工物・社会的概念にも自由に使える。

jøvenmen-si     芽生えつつある友情
jøvenmen-yø     十全な友情
jøvenmen-en     変質しつつある友情
jøvenmen-ul     途絶えた友情(しかし消滅ではなく潜在)

keismen-ul      眠っている建物=廃墟。誰も住んでいないが建物は在る
keismen-si      建ちつつある建物=建設中

høøne-si        生まれかけの歌——まだ旋律が定まらない
høøne-ul        忘れられた歌——誰も歌わないが消えてはいない

文中での使い方

Liis-yø   ŋølhe-en   mem.
見える-盛  花-移       私.能格
「散りゆく花が私に見えている」

Øsyø     jøvenmen-ul   mes-ve.
在る-盛   友情-眠        私たち-在格
「私たちのあいだに、眠っている友情がある」

動詞の周期相との独立性

名詞の周期相と動詞の周期相は独立に機能する。

Silsi     ŋølhe-ul.
現れる-萌   花-眠
「眠っていた花が現れ始める」——萌(動詞)と眠(名詞)の対比が、周期の転換点を描写する

動詞と名詞の周期相が独立に異なる位相を取れるため、形容詞的修飾では表せない対比が可能になる。

2.6 時間距離(任意)

周期相の後に挿入。省略すれば「今ここ」がデフォルト。過去と未来を区別しない。

距離 接辞
近(デフォルト)
-ra-
-hø-

2.7 証拠性・感覚モダリティ(任意)

動詞末尾に追加。省略すれば「不特定の直接体験」。

経路 接辞 意味
視覚 -lis 目で見て知った
聴覚 -nar 耳で聞いて知った
身体感覚 -fem 肌・鼻・舌など身体で知った
間接知 -vel 伝聞・推論など直接体験でなく知った
直観・夢 -søl 説明できないが知っている

メタフォリック拡張: 文学・詩のレジスターでは、-fem を miin-(知る)など知覚以外の動詞に重ねて「身体で感知する」「肌で察する」という共感覚的表現を作ることがある(例: miin-yø-fem「肌が知っている」)。これは規範的用法を超えた拡張で、日常会話では使わない。

南部方言には書物からの知識を示す -tes も存在する(Velšen語借用)。-tes の独自革新としての位置づけは design-notes.md「南部方言の独自革新」参照。

口語や南部方言では、証拠性接辞が動詞から離れて文末に遊離することがある。特に長い文で動詞が遠い場合や、後から証拠性を補足する場合に用いられる。

正式: Høilam sylven-en-lis safek-lei.   「外国人が市場に来た(目で見た)」
口語: Høilam sylven-en safek-lei, -lis.  「外国人が市場に来た、目で見た」

2.8 モダリティ(任意)

証拠性の後(動詞の最も外側)。

接辞 意味
-løs 可能(〜できる)
-søm 願望(〜したい)
-hør 義務(〜すべき)
-mhi 許可(〜してよい)
-røs 推量(〜かもしれない)

2.9 動詞の接辞テンプレート

否定(vi-) + 語幹 + 使役(-møs) + 周期相 + 時間距離 + 証拠性 + モダリティ
スロット 位置 必須?
否定 vi- 接頭辞 任意
動詞語幹 必須
使役 -møs 語幹後(接尾) 任意
周期相 接尾1 必須
時間距離 接尾2 任意
証拠性 接尾3 任意
モダリティ 接尾4 任意

最小: nøm-ul(眠る-眠) 最大: vi-nøm-møs-yø-ra-nar-søm(否定-眠る-使役-盛-中距離-聴覚-願望)

2.10 否定

動詞語幹の前に vi- を付ける。

Vi-nøm-ul šin.   「風は潜んでいない」
Vi-nør-yø mem.    「私に聞こえない」

vi- の融合経路:

  • 子音語幹: 規則的に並置(vi-nøm-, vi-røøl-, vi-liis-)
  • 母音語幹: i 脱落して母音直結(vi-øs- → vøs- 任意。§2.32 形態音韻 の vi- + 母音語幹)
  • 高頻度動詞: 融合・縮約(vi-miin- → viin- 口語)

不規則な否定形:

  • øs-(在る)の存在否定は別語幹 nen- を使う
  • øs- のコピュラ否定(「〜ではない」)には vi-øs- を使う。nen- が「存在しない」、vi-øs- が「そうではない」という意味的区別がある
  • miin-(知る)の否定は口語で viin- に縮約(正式には vi-miin-)
Nenyø šin.           「風が在らない」(存在否定)
Vi-øsyø me lamen.    「私は人ではない」(コピュラ否定)
Viin-yø mir-me.       「誰も知らない」(口語)

2.11 疑問

文末に na を置く。

Nøm-yø lamen na?      「人は眠っているか?」
Mir-nøs høøn-yø na?   「なぜ歌っているのか?」

2.12 疑問詞

mir(何)+ 格接辞で全派生。

疑問詞 意味
mir 何・どれ
mir-me 誰(どの体験者)
mir-ve どこ(何の中)
mir-lei どこへ
mir-nøs なぜ(何から)
mir-ves どうやって
mir-vel いつ(何の日)

mir-vel について: vel は「日」の意。-vel(証拠性・間接知)とは同根で、「日を経て知った知識」→「直接体験でない知」への文法化による。品詞が異なる(名詞複合 vs 動詞接辞)ため実用上の曖昧性はない。文法化経路の詳細は design-notes.md「-vel(間接知)の文法化経路」参照。

2.13 複数

名詞に -in を付ける。

nøøri → nøøriin  「星たち」
šin   → šinin    「風たち」

自然現象や不可算のものに複数形を使わない傾向がある。

名詞接辞の順序(集約):

語幹 + 周期相(任意) + 複数 -in + 格

意味 構造
nøøri-in-me 星たち(能格) 語幹 + 複数 + 格
hølis-in-ve 森たちの中で 語幹 + 複数 + 格
ŋølhe-en-in-ve 散りゆく花々の中で 語幹 + 周期相 + 複数 + 格
jøvenmen-ul-in 途絶えた友情たち 語幹 + 周期相 + 複数

→ §2.5b 名詞への周期相拡張、§2.3 格体系も参照。

2.14 人称代名詞

単数 複数
一人称 me mes
二人称 le les
三人称 se ses

全て前舌母音 e で統一。短く、歌の中で邪魔にならない。

代名詞の格変化は不規則(高頻度による磨耗):

me(私) le(あなた) se(彼/それ)
絶対格 me le se
能格 mem lem sem
属格 mel lel sel
在格 mev lev sev
共格 muu luu suu
向格 melei lelei selei
源格 menøs lenøs senøs
具格 meves leves seves

能格(-m)・属格(-l)・在格(-v)・共格(-uu)は縮約形。その他は規則的。

縮約 vs 規則のパターンは接辞の音節数で決まる: 単音節接辞(-m, -l, -v, -uu)は語幹と融合し縮約形を生むが、多音節接辞(-lei, -nøs, -ves)は規則的に接続する。短い接辞ほど高頻度語との磨耗で短縮しやすい、という認知的にも自然な分布。

me(一人称)と -me(能格)が同形なのは意図的。「私」と「体験する者」が同じ形をしている。

mem と me-me の使い分け: 日常会話では縮約形 mem(同様に lem, sem)がデフォルト。完全形 me-me は詩歌・強調・形式的な場面で用いる明示的ヴァリアント。

意志能格 -meva の代名詞形: 単数では完全形 me-meva, le-meva, se-meva(縮約 mem-meva 等は使わない。意志を強く明示する標識のため、形式的な完全形を保つ)。複数では規則的に mes-meva, les-meva, ses-meva

2.15 指示詞

同心円的距離の3段階。空間にも時間にも使える。過去と未来を区別しない。

指示詞 距離 意味
si この・ここの
ri その・そこの
høi あの・あそこの

名詞の前に置く。

si røøli   「この水」
høi nøøri  「あの星」
si vel     「今日」(この日)
høi vel    「遠い日」(過去でも未来でも)

2.16 空間表現

指示詞と空間距離接辞の使い分け

§2.15 の指示詞 si / ri / høi は名詞の前に独立した語として置かれ、「この・その・あの」を表す(si nøøri「この星」)。一方、本節の空間距離接辞 -sii / -rii / -høii は名詞に直接付加され、「ここの・そこの・あそこの」という空間的位置を含意する(hølis-sii-ve「ここの森の中で」)。両者は同根(短母音 → 長母音)だが、独立 vs 付着、修飾 vs 位置標識という機能差がある。

空間距離接辞(名詞に付加)

指示詞と同根だが長母音化で区別。

距離 接辞
ここ(手の届く範囲) -sii
そこ(知覚の内) -rii
あちら(知覚の外) -høii
hølis-sii-ve   「ここの森の中で」
hølis-høii-ve  「あの遠い森の中で」

相対方位

意味
insi 内へ・中心へ
øves 外へ・周縁へ
iihe 上へ・空の方へ
ulme 下へ・地の方へ

自然地形方位

固有語では風と水の流れで方角を指す。

意味
šinlei 風上
šinnøs 風下
røøllei 川上・水源の方
røølnøs 川下・海の方

絶対方位(古層借用語)

Velšen語から借用された東西南北。交易・地図・外交文書で使われる。北部話者は日常会話では自然地形方位を好む。

意味 Velšen語原形
norsek *nortek
suzel *sudel
sihel *tigel
vezol 西 *bedol

2.17 コピュラ

存在動詞 øs-。周期相を伴う。最も不規則な動詞。

周期相 肯定 否定
øsi nensi
øsyø nenyø
øsen nenen
ol(縮約) nenul
  • 存在否定は別語幹 nen- を使う。コピュラ否定(「〜ではない」)は vi-øs- を使う
  • nenyø = 存在しない。vi-øsyø = そうではない / 〜ではない(命題否定)
  • 眠相 øs-ul → ol(高頻度による強い縮約。*øsul → *osul → ol)
  • ol-hø で「遠い昔に在った」
Øsyø  me lamen.        「私は人である」
Ol    me lamen.         「私は人であった」
Ol-hø hølis.            「(遠い昔)森が在った」
Nenyø šin.              「風が在らない」(存在否定)
Vi-øsyø me høønel.      「私は語り部ではない」(コピュラ否定)

所有は在格構文で表す。

Øsyø   høøne  mev.  「歌が私のところに在る」=「私は歌を持っている」

在格 vs 属格 — 述語的所有と修飾的所有

両方とも「所有」を扱うが、機能は異なる。

構文 形式 用法
述語的所有 øs- + 対象(絶対格)+ 在格代名詞 「X を持っている」「X が在る」 Øsyø høøne mev.「私は歌を持っている」
修飾的所有 属格 -li 「X の Y」 se-li lhesin「彼の名前」

述語的所有は出来事として「X が在る」と語る——所有は静的な属性ではなく、対象が体験者のもとに在る現象。修飾的所有は名詞句内で関係を述べる。「私の馬が走る」は mel røøsin šøør-yø(属格)、「私には馬が在る」は Øsyø røøsin mev(在格)。

2.18 形容詞

名詞の後ろに置く。

šin søøle    「静かな風」
hølis iima   「美しい森」

比較

源格 -nøs で「〜より」。

Øsyø mira sile hølis-nøs.  「丘は森より美しい」

最上級

øøs(すべて)+ 源格。

Øsyø si hulmen høølen øøs-nøs.  「この山が最も大きい」

2.19 副詞

形容詞に -is を付けて副詞化。動詞の前に置く。

søøle → søøleis  「静かに」

Søøleis høøn-yø mem.    「私は静かに歌っている」

2.20 従属節

動詞名詞化 -rin + 格接辞で従属節を作る。

意味 構成
〜するとき -rin-ve røøl-si-rin-ve「流れ始めるとき」
〜なので -rin-nøs nøm-ul-rin-nøs「潜んでいるので」
〜するために -rin-lei liis-yø-rin-lei「見るために」
〜するところの -rin-li + 名詞 høøn-yø-rin-li lamen「歌っている人」

-rin-nøs の多義性(時間 + 因果):

源格 -nøs は「起点」を表す格であり、-rin-nøs は二つの用法を持つ:

意味
時間的「〜する前に」 ulnøm silsi-rin-nøs「夜が来る前に」
因果的「〜なので・〜だから」 røøl-en-rin-nøs「流れたので」

両者は分離した二義ではなく、「起点からの距離・関係」という単一概念の派生。時間軸では「事態の起点から見て」、因果軸では「原因(起点)から見て」と読める。文脈で判断する。

格接辞の時間的用法:

向格 -rin-lei と源格 -rin-nøs は時間的な前後関係にも使える。

意味 構成
〜するまで -rin-lei høømel silsi-rin-lei「煙が立つまで」
〜する前に -rin-nøs ulnøm silsi-rin-nøs「夜が来る前に」

向格(方向)が未来の到達点を、源格(起点)が未来の事態からの遡及を表す。

2.20b 派生による名詞化

動詞語幹から名詞を作る派生接辞は複数あり、それぞれ機能が異なる。

接辞 機能
-rin 節的名詞化(「V すること」)。格と組んで従属節を作る kel-yø-rin「歩いていること」、liis-yø-rin-lei「見るために」
-men 場所・状態の名詞化(「V するところ/状態」) kelmen「散歩・行列」、keismen「建物」、nømøsmen「部屋」
-ves 道具・媒介・産物の名詞化(具格と同根) nehølves「住まい・abode」(< nehøl-「住む」)、iirves「杖」(< iir-「息する・生きる」)
-is 副詞化/序数化(形容詞・動詞語幹から) søøleis「静かに」、enis「第1の」
-øs 抽象名詞化(出来事・性質) sikvenøs「裁き」、riišenøs「限度」
-me 行為者名詞(人を表す) halvesme「役人」、hiimme「料理人」、meelme「売り手」、vesrinme「通訳者」、mhinøsme「囚人」、føresme「警備員」、møølme「牧人」、nøhelme「旅人」、safekme「商人」

-rin と -men の違い: -rin は出来事・行為を「こと」として括り、節的に格を取れる。-men は場所・建物・状態など具体物に固定化される。同じ動詞 kel-(歩く)でも、kel-yø-rin「歩いていること」は節的、kelmen「散歩」は名詞。

-ves について: 具格 -ves(手段・道具)から派生し、動詞語幹に付くと「その動詞によって生じるもの/用いるもの/場としての媒介」を表す。生産的だが、派生形は語彙化していることが多い(vesin, nehølves 等)。

-me について: 能格接辞 -me と同形だが、こちらは語彙派生機能であり文法格ではない。能格は名詞句に付着して文法格を表し、行為者名詞化 -me は動詞語幹(または名詞)に固定された語彙派生として機能する。古層では別接辞 -el(høønel「歌い手・語り部」、jøørel「勇者」、miirel「師・導く者」 等)も並行する。

2.21 使役

動詞語幹に -møs を付ける。使役者は能格 -me、被使役者は向格 -lei。

Høøn-møs-yø  høøne  mem    se-lei.
歌う-使役-盛  歌     私-能格  彼-向格
「私が彼に歌を歌わせている」

Sylven-møs-yø  šin     liis-in   se-lei.
来る-使役-盛   風       光-複     彼-向格
「(風が)彼に光(複数)を見えるように促した」

Ziiri-møs-yø  iihe-li  šin   mem.
小さい-使役-盛 空-属格   風    私-能格
「私が空の風を小さくしている(弱める)」

使役構文の格役割:

役割 標識
使役者(誰が) 能格 -me mem, lem, sem
被使役者(誰に) 向格 -lei se-lei
動作対象 絶対格(無標) høøne
動詞 語幹 + -møs + 周期相 Høøn-møs-yø

「強制」より「条件を整えた・促した」のニュアンス。

2.22 再帰・相互(動詞前置小辞)

再帰(自分を〜する): 動詞の前に øm を置く。

Øm mhin-yø mem.    「私が自分を隠している」

相互(互いに〜する): 動詞の前に søin を置く。

Søin liis-yø mes.     「私たちが互いに見ている」

øm / søin は動詞前置小辞。接頭辞 vi- が動詞内(接辞テンプレート §2.9 の最内側)に位置するのに対し、øm / søin は独立した語として動詞の直前に置かれる。文法書では接頭辞・前置小辞・接続詞の3類型を区別する: 接頭辞は語形に組み込まれる、前置小辞は独立した語だが動詞のスコープを修飾、接続詞は節をつなぐ。

2.23 条件文

接続詞 mhel を従属節の前に置く。

Mhel røøl-si-rin-ve røsii, silsi røøli.
「もし雨が流れ始めるなら、水が現れ始める」

2.24 接続詞

機能
yi 並列(〜と、そして)
šen 転換(しかし、けれど)
nei 因果(ゆえに)
uu 同時性(〜しながら)
øøn 選択(または)
mhel 条件(もし。→ §2.23)
ris 比喩(〜のように)

談話接続(二語定型句・磨耗形)

日常会話や説明文で頻用される接続表現。接続詞の組み合わせから発達した。

意味 由来
vesøm つまり(言い直し) ves + øm(再帰)。自己修復マーカー
øøsves 要するに øøs + ves。要約
šen simer さて・ところで šen + simer。話題転換
šenøøn 一方で šen + øøn → 磨耗
yimiir さらに・加えて yi + miir → 磨耗
neiris 結局 nei + riišen → 磨耗
ris øøn たとえば ris + øøn。例示

2.25 関係性小辞(任意)

文中の任意の位置に置ける独立小辞。省略すれば中立。

小辞 関係性
ne 親しみ
høl 敬意・距離
mii 恩義・感謝
re 対等

2.26 命令形

専用の命令形態素は持たない。歴史的に、義務モダリティ -hør の縮約形が命令の機能を吸収した。

口語での縮約: -yø-hør が高頻度語で -ør に縮約し、事実上の命令形として機能する。

Ham-yø-hør → Hamør.     「食べなさい」(最も定着した縮約。ほぼ命令形)
Nøm-yø-hør → Nømør.     「眠りなさい」(やや定着)
Kel-yø-hør → Kelør.     「行きなさい」(散発的)

丁寧な依頼には願望 -søm を使う。-hør/-ør が直接的な指示、-søm が柔らかい依頼という語用論的対立がある。

Hamør.                  「食べなさい」(直接的)
Ham-yø-søm le.          「食べることが望ましい、あなたに」→「食べてほしい」(丁寧)

依頼の -søm は、相手の意志を -meva で強く指定せず、出来事を「望ましいもの」として差し出す。必要なら関係性小辞(ne/høl/mii/re)を添えて丁寧さを調整する。

-søm 構文の人称マーキング

役割 形式 用例
願いの対象(相手・自己) 裸の代名詞(絶対格形) Ham-yø-søm le.「食べてほしい」 / Riihen-yø-søm me.「帰りたい」
願いの主体(明示する場合) 能格代名詞 Vi-ham-yø-søm mem.「食べないでほしい(私が願う)」

裸の代名詞は文法的には絶対格形だが、-søm 構文では「願いの対象」という独自の役割を担う独立スロットとして機能する。動詞の項構造とは別レイヤーで、他動詞の絶対格対象と共存しても衝突しない。

Ham-yø-søm le.                              (ham- の対象を省略。le = 願いの対象)
Vi-sølv-yø-søm si ŋølhe-li ŋøølen le.      (ŋøølen = ham- の対象 [絶対格]、le = 願いの対象)

縮約が進んでいない動詞では -yø-hør のまま使い、やや堅い響きになる。

禁止(否定命令): 否定 vi- + 義務 -hør で「〜するな」を表す。

Vi-ham-yø-hør.        「食べるな」(直接的禁止)
Vi-kel-yø-hør.        「行くな」
Vi-ham-yø-søm mem.    「食べないでほしい」(柔らかい禁止)

-hør が直接的禁止、-søm が柔らかい禁止という対立は肯定命令と並行する。

Ham jøøle と Hamør の語用論的対立:

両者とも「召し上がれ」だが、立ち位置が異なる:

由来 機能 場面
Ham jøøle. 裸語幹 + 形容詞 jøøle「良い」 祈願形(祖語の化石) 食事を出す側が客人に勧める儀礼的表現
Hamør. -yø-hør 縮約 直接的指示 親しい関係での促し・命令

裸語幹定型句は「食べることが良くあれ」と相手の経験を願う形。-ør 縮約は「食べなさい」という直接的指示。前者は儀礼性、後者は親密さ・即時性を帯びる。

2.27 数詞

4と8を節目とする体系。4周期相が一巡。

備考
0 ul 眠相と同形
1 en
2 søi
3 mhi
4 yøn 一巡の充足。盛の母音
5 yøn-en 4+1
6 yøn-søi 4+2
7 yøn-mhi 4+3
8 siir 二巡
9-15 siir-en 〜 siir-yøn-mhi 8+n
16 søi-siir 2×8
32 yøn-siir 4×8
64 høøl 独自語根
512 siir-høøl 8×64
4096 miirhøøl miir(巡り)+ høøl(64)。64巡り

序数詞: 基数に -is を付ける。

序数
第1の enis
第2の søi-is
第3の mhi-is
第4の yøn-is
第8の siir-is
最後の vešøøn

例: shuno-ch1.md では Søi-is lhesiin-yø「2度目に呼んだ」、Mhi-is. Nøsmen-yø「3度目。立ちあがった」のような列挙的用法が見られる。

合成数詞の規則:

  • 加算: yi で接続。大きい位から降順。例: søi-siir yi yøn = 16+4 = 20、høøl yi yøn-siir yi siir-en = 64+32+9 = 105
  • 乗算: 乗数 + 被乗数。8の倍数に使用。例: søi-siir = 2×8、mhi-siir = 3×8、søi-høøl = 128、yøn-høøl = 256
  • miirhøøl: miir(巡り)+ høøl(64)= 64² = 4096。日常的にはこれ以上の数を扱う必要はほぼない 数詞は名詞の後ろに置く(nøøri mhi「三つの星」)。

2.28 複合語

修飾語 + 被修飾語の順で直接結合。

šin + møøl  → šinmøøl  「風の草原」
søøn + hølis → søønhølis「雪の森」

曖昧な場合は属格 -li を間に挟む。

2.29 時間副詞

意味
sivel 今日
rivel 近い過去/未来の日
høivel 遠い過去/未来の日
øøsvel いつも
viøsvel 一度もない
mišvel ときどき
simer

2.30 量化詞

意味
øøs すべて
miš いくつかの
enøs 一つだけの
viøs 何もない

名詞の後ろに置く。øøs, miš, enøs, viøs は代名詞的に単独でも使用可能(Ol øøs.「すべてが潜んだ」、Viøs øsyø.「何もない」)。

2.31 不規則動詞

高頻度動詞には歴史的磨耗による不規則性がある。

動詞 不規則性 歴史的理由
øs-(在る) 存在否定 nen-(別語幹)。コピュラ否定 vi-øs-。眠相 ol(縮約) 祖語の独立動詞が否定存在を駆逐。コピュラ否定は規則的 vi-
kel-(歩く) 遠距離形 keløø(縮約) 遊牧民の最頻用動詞
ves-(語る) 眠相 vešul(s→š交替)。命令縮約 vesør(フィラー化) 祖語の口蓋化の類推的波及。-yø-hør → -ør が談話標識として独立
miin-(知る) 否定 viin-(口語縮約) 高頻度否定による融合
ham-(食べる) 義務形 hamør(縮約) 事実上の命令として固定化
syl-(現れる) 語幹母音交替 sil/syl/sel/sol 祖語の母音交替の唯一の生き残り

syl- の語幹母音交替(唯一の例):

syl-si  →  silsi   (萌。y→i)
syl-yø  →  sylyø   (盛。規則的)
syl-en  →  selen   (移。y→e)
syl-ul  →  solul   (眠。y→o)

文語表記の規範: 文語・分節表記では接辞境界を保持してハイフン付き形(syl-yø, sel-en 等)を用いる。融合形(sylyø 等)は音韻実現の表記であり、§2.32 形態音韻規則の同一母音長母音化が起きていることを示す。translations では分節形を標準とする。歴史的動機については design-notes.md「祖語の母音交替と周期相」参照。

ves- の眠相(物語の冒頭定型句):

Vešul-hø høønel-me: ...
「遠い昔、語り部が語った——」

2.32 形態音韻規則

文語(書き言葉)では音韻変化は起きない。音韻変化は発話・歌唱時の現象。

状況 処理 義務性
同一母音の連続 長母音に融合(liis- + -si → liisi) 義務的
異なる母音の連続 そのまま / 先行母音脱落(rehi- + -en → rehien / rehen) 任意(速度依存)
子音+子音 音節境界で分割(høøn- + -nar → høøn.nar) 義務的
同一子音の連続 重子音(nøm- + -me → nøm.me) 義務的
語末子音+次語の母音 リエゾン傾向(hølis iima → [hø.li.siː.ma]) 任意
vi- + 母音語幹 i 脱落傾向(vi- + øs- → vøs-) 任意
複合内の長母音 中間形態素の長母音が短縮することがある(*ves-øøme → vesme) 任意(磨耗的)

2.33 方言

北部方言(Šinvel møøl vesin)

- 最も古風。遊牧文化圏。Dfc気候 - mh, lh を明瞭に発音。語末子音をしっかり保持 - 証拠性を日常会話でも多用。関係性小辞を丁寧に使う - 周期相4つを厳密に使い分ける - -meva(意志能格)は非常に重い。多用は傲慢とされる - 海洋語彙の日常使用頻度が低い(固有語は保持されるが、漁撈・船舶等の語が日常会話に前面に出にくい)。新層借用語をほぼ使わない

※ 北部・南部の社会背景・地理・気候の詳細は design-notes.md「世界観」参照。

南部方言(hapør vesin「首都の言葉」)

- 都市的。Cfb気候。隣国(Velšen語圏)の影響が強い - mh → m, lh → l に弱化。リエゾンが頻繁 - 証拠性接辞をほぼ省略。使うと「堅い」と感じられる - 周期相が実質2つに縮退傾向(萌+盛 → -yø / 移+眠 → -en) - -meva の使用に抵抗が薄い - 借用語により t, p が音素として再導入されている(子音18体系) - 新層借用語が多い(tadrem, polkenis, hapør 等) - 独自の革新: 所有接語(-m/-l/-s)、連動構文(動詞並置)、証拠性 -tes(書物)

南部方言の用例

以下、各文を北部形と対比して示す。

1. 所有接語

北部: Mel  røøsin  šøøre.        「私の馬は速い」
南部: Røøsin-m  šøøre.           (-m = 一人称所有接語)

2. 所有接語 + 南部語彙

南部: Parves-l  tøkel  mir  na?  「あなたの仕事の代金はいくらだ?」
      (-l = 二人称所有接語。parves, tøkel は南部借用語)

3. 連動構文(目的節 -rin-lei の回避)

北部: Liisves-yø-rin-lei  kel-en  mem  mirkosel-lei.
      「本を読むために図書館に歩いた」

南部: Kel-en  liisves-yø  mem  mirkosel-lei.
      (動詞を並置。-rin-lei が消え4音節分軽い)

4. 連動構文(因果 -rin-nøs の回避)

北部: Røsii  røøl-en-rin-nøs,  røølmen  miren-yø.
      「雨が降ったので川が増えた」

南部: Røsii  røøl-en,  nei  røølmen  miren-yø.
      (従属節を独立節 + nei に分割)

5. 証拠性 -tes(書物)

北部: Ol-hø  føøris  høølen  si  hulmen-ve,  -vel.
      「この山にはかつて巨大な熊がいた(間接的に聞いた)」

南部: Ol-hø  føøris  høølen  si  hulmen-ve,  -tes.
      「この山にはかつて巨大な熊がいた(本で読んだ)」

6. 周期相の縮退

北部: Silsi  ŋølhe.    「花が咲き始めている」(萌。明確に「始まりつつある」)
南部: Syl-yø  ŋølhe.    「花が咲いている」(萌+盛が-yøに縮退。始まりか最中か曖昧)

7. -meva の自由な使用

北部: Šimøs-en  si  peløøn  mem.       「この店を選んだ」(-me。現象として語る)
南部: Šimøs-en  si  peløøn  mem-meva.  「この店を選んだ」(-meva。意志を堂々と表明)

8. 音韻弱化(mh→m, lh→l)

北部: Mhiina-ve  mhøøle  šin  røøl-yø.   [m̥iːna.βe m̥øːle ɕin ɾøːl.jø]
南部: Miina-ve   møøle   šin  røøl-yø.    [miːna.βe møːle ɕin ɾøːl.jø]
      「霧の中で冷たい風が流れている」(mh [m̥] → m [m]。無声鼻音が有声化)

9. 証拠性の省略

北部: Nør-yø-nar   hølis-li  iirin  mem.   「森の声が聞こえている(耳で)」
南部: Nør-yø       hølis-li  iirin  mem.   「森の声が聞こえている」(-nar 省略。自明)

10. 複合(全特徴を組み合わせた南部の日常文)

南部:
Rivel  sikvenmen-ve  liisves-en  mem  tepøøn-m,  -tes:
tukøs  velis  syl-yø  miir-lei,  rivel-nøs.

「昨日法廷で私の書類を読んだが、書いてあったところによると、
新しい税が次の巡りまでに現れるということだ」

特徴: 所有接語(-m)、-tes、南部語彙(sikvenmen, tepøøn, tukøs)、
      周期相縮退(syl-yø)、連動構文(従属節なし)

2.34 補完的な構文

反事実条件

「もし〜だったら〜だっただろう」のような実現しなかった条件は、移相 -en + 推量 -røs の組み合わせで表す。完了相がないため、「過去」を示すのではなく「移ろい去った(実現しなかった)」+「不確実」で反事実性を構成する。

Mhel  kel-en-røs  hølis-lei,  miirel-en-røs  nøøri-li  iima.
もし  歩く-移-推量  森-向格      見つける-移-推量  星-属格   美しさ
「もし森へ歩いていたら、星の美しさを見つけていただろう」

時間距離 -hø-(遠)を加えると遠い反事実(「ずっと昔にもし〜していたら…」)。

Mhel  kel-en-hø-røs  hølis-lei,  miirel-en-hø-røs  se.
「もしあのとき森へ歩いていたら、それを見つけていただろう」

間接話法

「〜と言った」のような引用は、ves- 系動詞 + 補文の -rin 節 で表す。直接引用は鉤括弧で示すが、間接話法では補文を -rin で名詞化し、補文標識として動詞の後に置く。

直接: Ves-yø Šurii: "Šin høølen ol."     「『風が大きかった』とシュリーが言う」
間接: Ves-yø Šurii [šin høølen ol-rin].   「シュリーが、風が大きかったことを語る」

補文内の証拠性・モダリティはそのまま保持する。

Ves-yø  se  [Šuno  sylven-en-vel-rin].
語る-盛  彼  シュノ 来る-移-間接知-rin
「彼は、シュノが来たという話を語る」(伝聞情報を伝聞として再伝達)

埋め込み疑問

疑問詞 mir + 節 + -rin で「〜か(どうか)」を埋め込む。文末の na は埋め込み疑問では使わない。

Vi-miin-yø  mem  [se  mir-vel  sylven-yø-rin].
否定-知る-盛  私.能格  彼  何-日   来る-盛-rin
「彼がいつ来るか分からない」

Mirves-yø  mem  [hølis-ve  mir-me  nehøl-yø-rin].
問う-盛  私.能格  森-在格   何-能格  住む-盛-rin
「森に誰が住んでいるか問う」

yes/no 疑問の埋め込みには疑問詞の代わりに øøn(または)を補文標識として使う。

Vi-miin-yø  mem  [øøn  se  sylven-yø-rin].
否定-知る-盛  私.能格  または  彼  来る-盛-rin
「彼が来るかどうか分からない」

3. 語彙

語彙集は 語彙集ページ を参照。


4. 用例集

4.1 基本文

Nøm-ul šin.
眠る-眠 風
「風が潜んでいる」

Røøl-yø røøli.
流れる-盛 水
「水が流れている」

Silsi nøøri.
現れる-萌 星
「星が現れ始めている」

4.2 能格と意志性

Liis-si    nøøri    mem.
見える-萌  星       私-能格
「星が見え始めている、私に」(非意志)

Liis-yø    nøøri    me-meva.
見る-盛    星       私-意志能格
「私が星を見ている」(意志)

4.3 格の使用

Hølis-li   ves    nør-yø-nar      mem.
森-属格    声     聞こえる-盛-聴覚  私-能格
「森の声が聞こえている、私の耳に」

Kel-ul-ra      hølis-ve   me-meva   søimel-uu.
歩く-眠-中距離  森-在格    私-意志能格  友-共格
「少し前、森の中で私が歩いた、友と共に」

4.4 従属節

Nøm-ul-rin-nøs     šin,   øsyø    hølis   søøle.
眠る-眠-こと-源格    風     在る-盛  森      静かな
「風が潜んでいるので、森は静かに在る」

Mhel  nøm-ul-rin-ve  søøn,  røøl-si  røøli.
もし  眠る-眠-の中で  雪    流れる-萌  水
「もし雪が潜んでいるなら、水が流れ始める」

4.5 詩的表現

Søøn  rehi-en,    lhøøsi  silsi.
雪    消える-移    夜明け光  現れる-萌
「雪が消えゆき、夜明けの光が現れ始める」

Nør-yø-nar         hølis-li  ves,
聞こえる-盛-聴覚で   森-属格   声

šin-uu     iir-yø    me.
風-共格    息する-盛  私
「森の声が耳に聞こえ、風と共に息をしている」

4.6 実用的な文

Mir-nøs  høøn-yø   lhiiven  na?
何-源格  歌う-盛    鳥     疑問
「なぜ鳥は歌うのだろう」

Vi-sølv-yø-søm     si  ŋølhe-li  ŋøølen    le.
否定-忘れる-盛-願望  この 花-属格   香り      あなた
「この花の香りを忘れないでいてほしい」

Øsyø   ves:  hele-en-hø    nøøri  øvesin-lei.
在る-盛  語り  落ちる-移-遠   星     海-向格
「語りが在る——遠い昔、星が海へ落ちていった」

4.7 挨拶・慣用表現

表現 意味 場面
Šin søøleis. 風が穏やかだ 日常の挨拶
Mir øsyø na? 何がありますか? 調子はどう?
Iir-yø. 息をしている 元気です
Nøøri sile. 星が美しい 夜の挨拶
Kel-si møøl søøle. 草原の旅路が穏やかでありますよう 別れの挨拶
Miirsøl. ありがとう 感謝・敬意
Mhel šin-uu. 風と共にあれ 旅立つ者へ(化石化した祈願表現)
Rivel-ve. またね カジュアルな別れ
Nøm søøle. おやすみ 就寝前
Mhøliirin. すみません 丁寧な謝罪
Løøme. ごめん カジュアルな謝罪
Nen keisfem. 気にしないで 謝罪への返答
Miirsøl hamen. いただきます 食事前
Yøøn-yø. ごちそうさま 食後
Iir jøøle. お疲れ様 労い

4.8 談話標識を含む会話例

— Ei ne, Šurii.           「ねえ、シュリー」
— Øø?                      「ん?」
— Em... mirves-yø mem, na ne.  「えーと…聞きたいんだけどさ」
— Vesør.                   「話して」
— Høilam sylven-en safek-lei, -lis.
                           「外国人が市場に来た、目で見た」
— Røølis na?               「本当?」
— Iin røølis. Yi simer, ves-yø vesin vimiinøs sem.
                           「本当だよ。しかも、知らない言葉を話していた」
— Za! Mir-nøs sylven-yø na søl.
                           「わ! なんで来たのかな」
— Em, viin-yø mem. Šenøøn, safekme-in føøs-yø.
                           「えーと、わからない。一方で、商人たちは喜んでいた」
— Miin. Neiris, jøøle-is, na ne.
                           「なるほど。結局、いいことだよね」
— Iin. Šen simer, ham-yø na le? Hamør.
                           「うん。さて、食べる? 食べなよ」
— Miirsøl. Ham jøøle.
                           「ありがとう。いただきます」

4.9 名詞周期相の用例(→ §2.5b)

動詞と名詞が独立に異なる周期相を取れることを利用した表現の例。動詞の周期相がその場面の現象を描写するのに対し、名詞の周期相はその存在の位相を示す。両者を独立に運用することで、形容詞的修飾では表せない時間的・存在論的な厚みが生まれる。

Liis-yø    ŋølhe-en    mem.
見える-盛   花-移        私-能格
「散りゆく花が私に見えている」(動詞=盛、名詞=移。今この瞬間に見えているが、花そのものは移ろい中)

Silsi      ŋølhe-ul.
現れる-萌   花-眠
「眠っていた花が現れ始める」(動詞=萌、名詞=眠。眠の位相にあった花が萌の動きを始める)

Øsyø      jøvenmen-ul    mes-ve.
在る-盛    友情-眠         私たち-在格
「私たちのあいだに、眠っている友情がある」(友情は今は眠の位相にあるが、消滅したのではなく潜在)

Iir-yø     keismen-si     møøl-ve.
息する-盛   建物-萌         草原-在格
「草原のなかで、建ちつつある建物が息をしている」(建設中の家屋)

Nør-yø-nar   høøne-ul-li   eziin    mem.
聞こえる-盛-聴覚 歌-眠-属格    こだま   私-能格
「眠っている歌のこだまが私に聞こえている」(誰も歌わなくなった歌が、こだまとしてまだ響く)